この記事では天皇大権について解説します。
大日本帝国憲法は天皇主権となっており、国家意思の最終的、最高の決定権は天皇になりました。
天皇主権が大日本帝国憲法の基本原理です。
当然、権力の分立はなく、権力のすべてを「天皇は統治権を総攬す(=一手に掌握する)」という形で握っていました。
またあらゆる権力が介入できない天皇大権がありました。
今回は、天皇大権の内容について解説します。
大日本帝国憲法については『大日本帝国憲法の特徴をわかりやすく。伊藤博文はドイツ憲法を参考にした。』の記事をご覧ください。
天皇大権とは?
広い意味では天皇の統治権。狭い意味では帝国議会の参与(協力)を得ずに、あるいは裁判所への委任なしに天皇が単独で行使できる機能。
統治権とは?
国家を治める権利の事。国権ともいう。国家の最高権力ともいえる。
国によって統治する政治体制が異なる。
天皇大権とは、広い意味では天皇が日本国という国をどのように統治するかを定めた統治権のことです。
大日本帝国憲法上は、帝国議会は天皇の協賛機関となっており、天皇に協力するための機関です。
内閣は天皇輔弼(=助言)機関となっており、天皇にアドバイスをするための機関となっています。
輔弼とは?
読み方:ほひつ。
大日本帝国憲法において、天皇の権限行使に対する国務大臣の助言、アドバイスのこと。
天皇の行為に関しては国務大臣がその責任を負っていました。
裁判所は天皇の名において裁判を行い、枢密院は天皇の諮問機関となっており、天皇が意見を求める機関となっています。

天皇大権の具体的な内容
これまでは広い意味での統治権に関する天皇大権について解説しました。
ここでは具体的な天皇大権の内容について紹介します。
〇勅令(読み方:ちょくれい)
大日本帝国憲法に制定された天皇の発する命令。
天皇大権の一つで、帝国議会の同意がなくても発令することができました。
〇緊急勅令
帝国議会が閉会している時でも緊急の必要により、公共の安全を保持したり、厄災を避けるために天皇が発する命令です。
次に議会が開かれる時に、帝国議会で承諾を得なければその効力は失われました。
〇非常大権
戦争時や国家の非常事態の場合に、臣民権利義務規定の全部や一部を停止する天皇の大権です。
非常時における天皇の絶対的権限を規定しています。
大日本帝国憲法31条で定められていましたが、具体的な内容は規定されていなくて
非常時に利用できる大権という不明瞭なものだったため、実際には一度も発動されることはありませんでした。
〇戒厳大権
戦争時や非常事態の場合に、秩序の回復をはかるために、司法権・行政権の一部を軍の権力に移すこと。
日比谷焼き討ち事件、二・二六事件、関東大震災の時に戒厳大権が行使されました。
〇外交大権
外国と条約を締結する時は、天皇の諮問機関である枢密院にて審議をして
天皇の承認が無ければ批准することができませんでした。
〇統帥権
軍隊を指揮したり命令する権限のこと。

統帥権の独立とは?
統帥権が帝国議会や内閣から独立していること
統帥権とは天皇が軍隊を指揮したり、命令する権限のことでした。
法律を作ったり、行政を行うことは帝国議会や内閣で行われていましたが、軍隊に関してはこの帝国議会や内閣とは関係の無いところで独立していました。
現代の憲法では、内閣が自衛隊に対して指示を出せます。
しかし、大日本帝国憲法では内閣は軍隊に指示を出すことができず、天皇の命でのみ行動していたのです。
この仕組みが軍の暴走にもつながりました。
軍は天皇の名の下に行動をしているので、「天皇はこう考えるに違いない」と軍が自ら行動して、国政全般に関与していく事となったのです。
帝国議会や内閣には軍を抑える権力が備わっていなかったため、軍の政治介入を許す結果となりました。
大日本帝国憲法下では天皇にすべての権利が集中していましたが、
実際は1人の人間が国政のすべてを把握して管理と実行をすることはできないのは容易に想像できるかと思います。

まとめ
この記事では天皇大権について解説しました。
天皇大権はあらゆる権力が介入できない天皇に与えられた権利で大日本帝国憲法で規定されています。
広い意味では天皇が日本を統治する権利についてで、狭い意味では議会や裁判所を経ずに天皇が行使できる権利の事です。
統帥権は独立していて、軍が暴走するきっかけともなっていました。