この記事では公共の福祉について解説します。
日本国憲法では三大原理として「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」が基本的な考え方として盛り込まれています。
基本的人権に関しては大日本帝国憲法では認められておらず、天皇の臣民としての位置づけでした。
基本的人権とは人間として当然に持っており、国家といえども侵すことのできない権利ですが、
各個人が人権を確保するために、公共の福祉という概念があります。
基本的人権に関しては『人権とは何か?基本的人権についてわかりやすく解説。戦後の世界的人権保障』の記事をご覧ください。
公共の福祉とは?
社会全体の幸福と利益。憲法第12条、第13条、第22条、第29条に規定されている。
公共の福祉とは、各個人が自分の人権を確保するために、相互に矛盾や衝突を起こした場合に調整するための原理のことです。
人権は無制限ではなく公共の福祉の制限を受けます。
つまり、人権とは公共の福祉により制限を受けながら、公平に調整されるのです。
公共の福祉は憲法に規定されています。
憲法第12、13条では広く「人権間相互の衝突を調整する原理」として定義されています。
例えば、表現の自由として駅前にて大規模なデモを行うと、近隣のお店は経済的な損失被ってしまいます。
他にもマスコミには報道の自由がありますが、事件の遺族や加害者の家族のプライバシーの権利などの調整などの例があります。
もしくは、自分の土地に住宅を建てようと思った時に好きなように建てられるわけではなく、周りの景観や日照権などを守りながら住宅を建てなければなりません。
他にも感染症などにより、入院を余儀なくされることも公共の福祉のために自由を制限していると言えます。
このようにどちらに我慢してもらわねければならず、人権を守るために人権を制約するという考えが公共の福祉なのです。
〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
〔個人の尊重と公共の福祉〕
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
他の権利に配慮することを、公共の福祉の「内在的制約」と言います。
しかし、何が公共の福祉かを判断するのは難しく、公共の福祉をもって人権を制限するには、慎重で厳格な配慮が必要です。

公共の福祉の政策的制約とは?
社会的弱者を救済するために経済の自由を制限して、「福祉国家」や「社会権」を実現する原理
例えば、経済の自由を根拠に工場が営業活動をしていたとします。
しかし、その工場の公害が近隣住民の生命・健康を害する行為である場合は、営業活動の制約のような形で制限されます。
公務員のストライキに関しても、公務員がストライキを起こすと国民生活に支障があるため公共の福祉を実現するために、成約されています。
表現の自由や精神の自由に関しては公共の福祉の制約をあまり受けるべきではないという解釈ですが、
経済の自由は公共の福祉の制約をより強く受けるものとなっています。
憲法の第22、29条では公共の福祉が個別的に規定されています。
第22条は居住、移転、職業選択の自由が規定され、第29条では財産権の不可侵が規定されています。
〔居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由〕
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
〔財産権〕
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
憲法22条と29条では「公共の福祉に反しない限り」と明文化されています。
経済の自由への公共の福祉の適用は、社会権を実現するために必要不可欠という考え方なのです。
福祉国家や社会権を実現するために、人権を制限できたとして、公共の福祉は国家権力が不当に国民の権利を制限するためのものではありません。

まとめ
この記事では公共の福祉について解説しました。
我々には人権があるからといって何をしても良いわけではなく、公共の福祉によって制約を受けます。
公共の福祉とは社会全体の幸福のことです。
憲法でも公共の福祉が規定されており、身体の自由、表現の自由、精神の自由などは比較的制約を受けませんが、経済の自由に関しては福祉国家や社会権を実現するために比較的強く制約されます。