この記事では法の支配と法治主義の違いを解説します。
市民革命以降、自由権などの人権概念の広がりとともに法の体系も確立されてきました。
私たちが生活している社会は法によって人権保障や社会秩序が維持されています。
法なくして現代社会は機能しませんが、法の活用手段については「法の支配」と「法治主義」の考えがあります。
法の支配とは?
法によって国民の自由・権利を守るという考え方
イギリスで発展した法の支配の考え方は、たとえ統治者であっても法の支配をうけるものとしていて、
国民は「人の支配」を受けずに、法によってのみ支配を受けるという考え方です。
法の支配の流れ
13世紀
ブラクトン
「国王はいかなる人の下にも立つことはないが、神と法の下にある」と発言して、法の支配を主張
17世紀
エドワード=コーク
王権神授説を信じる国王ジェームス1世に法の支配を要求 → 1628年権利請願
19世紀
ダイシー
『英国憲法研究序説』→法の支配の定式化
イギリスにおいて「法の支配」という憲法原理の確立に貢献したのは、エドワード=コークが国王に法の支配を要求したことです。
下院の議長であったエドワード=コークは法案の形で提出すると国王の態度がより王権神授説によって意地になってしまうと考え、請願の形で出しました。
1628年に国王チャールズ1世に出された権利請願は、
マグナ・カルタ、権利の章典、とともにイギリスの憲法を構成する重要な基本法として位置づけられています。
イギリスで発展したという事は、自然法を意味していて、人権が尊重されたものでなければなりません。
つまり法の内容自体も重要であり、これを「実質的法治主義」と言います。
法の支配は国王権力から国民の自由や権利を守る内容だとも言えます。

法治主義とは?
法の内容を問わず、法を遵守することのみを強調する立場
法治主義の考え方では議会で制定された法により支配されることを意味して、「悪法でも法なり」という考え方でもあります。
行政の効率化を目的としてドイツで発展しました。
もともとは「国王の権力は法律によらなければ、国民の権利や自由を侵害できない」という考え方に由来しています。
つまり、法律を守りさえすれば、国王(行政権)は国民の権利・自由を侵害できるとも解釈できてしまいます。
これを法の内容までも問わない「法治主義」と言います。
かつてドイツのファシズムを生み出す要因にもなっており、ヒトラーは1933年に
それまで民主的とされていてワイマール憲法を否定し、自分に全権を委任する「全権委任法」を制定してしまいました。
その結果、ユダヤ人の大虐殺につながったのです。

法の支配と法治主義の違い
ここまでの説明でおわかりになったかと思いますが、
改めて「法の支配」と」法治主義」の違いをまとめます。
2つの違いは、法の中身の合理性を問うか問わないかです。
「法の支配」は法律の内容の適正までも要求するのに対して、「法治主義」ではこれを求めません。
「法の支配」であるイギリス、アメリカの国では法律が基本的人権を保障している憲法と照らし合わせて、
整合性があるかどうかを裁判所が審査する違憲立法審査権が確立しています。
制定法の効力順位に関しては『制定法の効力順位、上位法と下位法とは?上位法優先の法則。』の記事をご覧ください。

まとめ
この記事では法の支配と法治主義について解説しました。
法の支配はイギリスで発展して、法治主義はドイツで発展しました。
法の支配は自然法による支配で、基本的人権を保障する内容となっています。
一方、法治主義では法の形式を重視しており、法律の内容によっては人権侵害を起こす可能性もあります。
明治憲法下でも1925年の治安維持法という法律で、共産主義者や反天皇主義者が弾圧され人権侵害を受けました。
これも法治主義によるものです。