この記事では香港のデモの理由について解説します。
香港はアヘン戦争以降1997年までイギリスの植民地だったため、
イギリスの自由主義や民主主義の思想が根付いている地域です。
極端な言い方かもしれませんが、香港人は自分達を中国人だとは思っていません。
中国本土は1949年の建国以来、現在まで共産党の一党独裁の政治体制が続いており、香港とは違った思想で政治が運営されています。
今回の香港デモはこういった「思想の違い」という根っこの部分が違う問題を背景として、
法律の改正案を発端に発生しました。
10/4更新
香港政府はデモの過激化に対して、行政機関が緊急時に発動できる緊急法を半世紀ぶりに発動しました。
緊急法の内容に関しては『香港の緊急法で制定された覆面禁止法とは?香港デモが過激化。』の記事をご覧ください。
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香港の緊急法で制定された覆面禁止法とは?香港デモが過激化。
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香港デモのきっかけ
逃亡犯条例の改正に反対する香港人が起こしている抗議運動
2018年に台湾にて香港人の男が恋人を殺害しました。
男は香港に逃げた後、警察により身柄を確保されました。香港警察は男の身柄を台湾に送還しようとしましたが、
香港は台湾と「引き渡し協定」を結んでいなかったため、事件が起きた台湾に身柄の送還ができなかったのです。
現状の法律では「引き渡し協定を結んでいる所にのみ身柄を引き渡す」内容になっているため、
台湾で犯罪を起こした男を香港で裁くこともできず、台湾に送還する事もできない最悪の状態だったのです。
そこで、香港政府はもっと簡単に犯人に身柄を送還できるように引き渡し協定(=逃亡犯条例)の改正に動き出しました。
香港政府は、「協定を結んでいない、台湾や中国から要請があれば犯罪者の引き渡しを可能にする」改正案を出し、
議会で可決したことを発表したのです。

香港デモが起きた理由
中国共産党の支配が香港に及ぶと香港人が危惧したため
逃亡犯条例が改正されて、身柄の引き渡しが簡単に行われるようになると
香港人が中国の司法で裁かれたり、人権がひどく犯される可能性があるとして人々は猛烈に反発しているのです。
上記のような状態を「一国二制度」と言います。
1つの国に2つの政治制度があり、国は同じとしながらも限りなく自由に近い自治を認めているのです。
中国共産党は社会主義国家であり一党独裁制であり、
政権に反対するような言動だけで逮捕されてしまう可能性もあるのです。
騒ぎを起こしたり、社会に混乱を起こした罪の『政権転覆扇動罪』は中国では有名な罪状で簡単に捕まることもあるそうです。
香港人が香港の中国からの支配を恐れ、
「自由」や「人権」が侵害されるのではないかと恐れるのも、当然のことかもしれません。
今回の逃亡犯条例の改正では、中国の非民主主義の司法が香港に導入されて、中国に批判的な香港の活動家らが中国に引き渡されてしまう恐れもあると香港人は危惧しています。
香港デモは2019年6月頃から頻繁に行われ、100万人をこえる大規模デモに催涙弾が投げ込まれ、若者19名が逮捕されるというニュースが報じられました。
2019年8月現在、デモは2ヵ月以上も続いており、デモ参加者と警察が衝突を繰り返しています。

香港デモに対する中国の対応は?
2019年8月18日、香港人は香港警察の許可を得ないまま170万人規模のデモ行進を行いました。
香港警察は香港のビクトリア公園内で「集会」は許可していましたが、「デモ行進」は許可していなかったのです。
170万人規模のデモは6月の200万人に次ぐ規模のデモのため、香港人による今回の一連のデモを継続する決意表明となりました。
中高生は夏休み明けの授業をボイコットする計画も立てています。
中国政府は香港に隣接する広東省深圳に人民装警察部隊を集結させて、圧力を強めています。
香港警察は8月18日のデモで警察隊2,500人を出動させていますが、
習近平率いる人民武装警察部隊は1万人規模との情報を入っています。
我々のような外国人が気になるポイントとして、
「中国は軍事介入をするのかどうか?」
という点です。
1997年に制定された香港の基本法(香港のミニ憲法とも呼ばれる)では、
香港政府の要望があった時のみ、中国は軍隊を出動できると明記されています。
つまり、香港政府からの要請が無い限りは中国政府は軍隊を出動できないわけなのです。

香港政府は中国寄りですが、中国の軍隊の要請まではしないだろうというのが大方の専門家の予想です。
中国の軍隊が香港の街並みを占拠して民主化を潰すようであれば、
世界中の富豪や経済活動が集中する香港の対外イメージを大幅に毀損する恐れがあるからです。
中国の軍介入は政治的には「下策中の下策」であるとされています。
しかし、中国政府はデモを行っている民間人を「テロリスト」とけん制しているため、今後のデモの激化を香港政府が対応しきれない場合は、事態は変わってしまうかもしれません。

香港デモの影響
香港デモは2019年8月19日の段階で11週近く続き長期化しています。
香港デモの影響は香港だけではなく、世界中にも飛び火しています。
空港の封鎖
当初の香港デモは香港市の中心部にて行われていましたが、8月に入り香港国際空港を占拠するデモにまで発展しました。
香港国際空港は香港出入国の玄関だけではなく、「乗り継ぎ空港」としても利用されているため、
空港がデモで占拠された事は大きな影響となりました。
8月12日はすべての発着便が欠航。
中国政府は「テロの兆候」が見らえると激しく非難しました。
空港の機能が麻痺する事は香港の経済にとって大きな打撃となりますが、
デモの参加者達にとってはそれが目的となっています。
空港という場所でデモを行う事で、香港人にとっては世界中に中国の卑劣さをアピールする目的がありました。
全日の8月11日にデモに参加していた女性の右目に、警察が鎮圧するために撃った弾が直撃したこともあり、
重症を負った女性の姿は抗議活動の正当性を証明するようなイメージも植え付けたかもしれません。

キャセイパシフィックの代表が辞任
香港を拠点とするキャセイパシフィック空港は、多くの職員がデモに参加しており
従業員をコントロールできないという経営体質を批判されていました。
代表のホッグ氏は責任を取る形で辞任をしました。
加熱する抗議デモの影響が、ついに企業の経営陣にも及んでしまいました。
中国はデモに参加しているキャセイパシフィックのパイロットを中国の本土便に乗務することを許可しないと警告していました。
キャセイパシフィックはデモに参加したパイロットを解雇。
一般企業の従業員にまでデモの影響は及んでいます。

イギリス議員パスポート付与提案
イギリスの国会議員のトム・タジェンダット氏は、
「香港市民には英国籍を与えるべきだ。香港の抗議運動を支援する英国の姿勢を見せるときだ」
と発言しました。
トム・タジェンダット氏は1997年に香港がイギリスの植民地から独立した際に、
香港に放置してきた市民の国籍問題を当時解決しなかったのは過去の誤りだとしています。
現在の香港人は2種類のパスポートを持つことができます。
1つは中国の特別自治区としての中国人のパスポート、もう1つはイギリスが発行する海外植民地の「二等国民」がもつパスポート(=BNO旅券)です。
香港人の約半数がBNO旅券を持っており、もしイギリスの国会議員トム・タジェンダット氏の提案が採用されれば、
理論的には香港人の半数がイギリス人に帰化できるという事になります。
しかし、もし仮に多くの香港人がイギリス国籍を選択した場合、
中国にとっては屈辱的な敗北感を得ることとなり、到底耐えられる出来事ではなくなってしまうでしょう。

アメリカの反応
アメリカは天安門事件を覚えている。
中国との貿易摩擦問題で対立しているアメリカですが、中国政府の香港に対する対応として、上記の言葉でけん制しています。
天安門事件とは?
1989年、学生の抗議デモを中国の軍隊が介入して鎮圧した事件。
中国政府に反対した人達を軍隊を出動させて武力行使したことが世界中から非難されました。
アメリカは中国との貿易摩擦問題で対立中のため、
公の香港を支持する事ができない立場にあります。
香港の問題に慎重に対応するように中国政府に求めました。
トランプ大統領はtwitterで、
『国家主席の習近平がデモ活動者に個人的に会って会談すれば、デモは収束するだろう。』
If President Xi would meet directly and personally with the protesters, there would be a happy and enlightened ending to the Hong Kong problem. I have no doubt! https://t.co/eFxMjgsG1K
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 15, 2019
という民主主義という社会で育ち生活してきた人の意見を述べています。
■9/2追記 学生らがストライキを開始
9/2現在、香港デモは激化の一途をたどり、若者たちが地下鉄の駅を破壊したりと暴徒化しています。
香港では夏休みが終わり9/2から学校が始まりましたが、
一部の中学、高校、大学生は授業のボイコットを始めました。
学生らはSNS等でボイコットの呼びかけを始めて、100以上を超える中学高校でボイコット運動が広がりました。
学校前で学生らは座り込み、手をつないで「人間の鎖」をつくったりビラを配る活動をしています。
香港政府の政務官は「学校に社会問題を持ち込むべきではない」と批判を強めています。
授業ボイコットを呼びかけた大学の学生会は香港政府への回答期限を13日に設定しています。
条例の完全撤回や暴力行為を調査する独利委員会の設置など「五大要求」を主張しています。
まとめ
この記事では香港デモの理由について解説しました。
香港デモは中国共産党の支配の影響が香港にも及ぶのではないかと危惧した香港人が起こしているデモです。
香港はイギリスの植民地であった事から、中国に比べて自由主義・民主主義の思想が色濃く人々に根付いています。
過去の中国による政治介入もきっかけとなり、ここまでデモが激化しました。
この記事は2019年8月19日時点の記事ですが、進捗がありましたら更新したいと思います。
■9/4追記
香港政府トップの行政長官は、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案をせいしきに撤回することを表明しました。
香港政府の狙いとしては、香港のデモが6月から始まりずっと長引いている状態に、
市民に一部の要求を受け入れてデモを抑えようとする狙いがあります。
しかし、逃亡犯条例の改正をきっかけに起こった今回の香港デモですが、
デモ活動は香港の政治自体を改革するようにエスカレートしているため、「逃亡犯条例」の改正撤回だけで
デモが収束するかは不明となっています。
香港政府の長官はテレビを通して「逃亡犯条例」の改正撤回を発表して
市民に暴力による抗議活動を停止するように呼びかけました。
また社会問題を討議するための専門家の委員会を作ることや、政府と市民の対話の機会を増やす枠組みを作るそうです。
■11/29追記
アメリカは香港人権法案を上下院の圧倒的多数の賛成で可決して、トランプ大統領が11/27に署名を行いました。
香港人権法案に関しては、以下の記事をご覧ください。
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可決された香港人権法案とは?わかりやすく解説。アメリカの内政干渉?
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